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中国史に出てくる諡（おくりな）について（6）−−西漢 1

   今回は、西漢（日本では前漢と言っています）時代の諡号です。中学生のとき『漢書』の表を見たら、いろいろな諡がいっぱい出てきたので、すっかり喜んでしまいました

   これから述べていく諡は、戦国時代の自称のものとは違って、いずれも当時の、または直後の政権によって死後贈られた名です。従って生前自称したものではありません。ここでは諡については他の称号や諱（実名）と区別して〔 〕内に示し、〔襄公〕〔宣侯〕のように表記します。系譜中で罫線−のあとに続柄を記載していないものは、実子（男子）による襲爵です。また、それぞれの王侯の家の系譜は、主流とおもな傍流を除き省略しますので、封爵を与えられた子孫をすべて掲載するわけではありません。

＊まずは皇帝の在位年から。

・太祖高帝（＝高祖） 劉邦 紀元前206-195
・恵帝 劉盈 前195-188
・呂太后（＝高后） 呂雉による称制 前188-180
・太宗文帝 劉恒 前180-157
・景帝 劉啓 前157-141
・世宗武帝 劉徹 前141-87
・昭帝 劉弗陵 前87-74
・廃帝海昏侯 劉賀 前74
・中宗宣帝 劉詢 前74-49
・元帝 劉奭 前49-33
・成帝 劉驁 前33-7
・哀帝 劉欣 前7-1
・平帝 劉衎 前1-後5
・王莽摂政時代 後5-8

★異姓の諸侯王たち；   

   高祖・劉邦は紀元前206年即位となっていますが、前206年は漢王としての即位の年で、項羽を滅ぼして皇帝として即位したのは紀元前202年のことです。つまり、その間に誕生した「王」は、劉邦が取り立てた者も含め、劉邦と同格だったということになります。そんなわけで、劉邦は皇帝として即位してから次々にこれらの諸侯王を取り潰していきました。長沙王の呉氏だけが文帝時代まで残ったのです。

◆趙王〔景王〕張耳−趙王（廃位）/宣平侯〔武侯〕敖−魯王（廃位）/南宮侯〔共侯〕偃−南宮侯〔哀侯〕欧−南宮侯 生（有罪廃絶）
◆淮南王 英布（討滅）
◆長沙王〔文王〕呉芮−長沙王〔成王〕臣−長沙王〔哀王〕回−長沙王〔共王〕右−長沙王〔靖王〕著（無嗣廃絶）
◆楚王（廃位）→淮陰侯 韓信（粛清）
◆梁王 彭越（粛清）
◆太原王 韓信（＝韓王信。匈奴へ亡命）−太子（名未詳）−襄城侯〔哀侯〕嬰（漢に投降して封侯）−襄城侯 釈之（有罪廃絶）
◆燕王 盧綰（匈奴へ亡命）−子（名未詳）−亜谷侯〔簡侯〕它人（漢に投降して封侯）−亜谷侯〔安侯〕種−亜谷侯〔康侯〕偏−亜谷侯 賀（有罪廃絶）

   完全に滅ぼされた者が三人、他の四人は何らかの形で子孫が王侯の地位を与えられ、西漢中期まで存続しています。
   諡としては、長沙王の呉氏も、列侯として続いた三つの家も、時代を下るにつれて、パッとしない平凡なものになっています。

★同姓諸侯王；

   高祖は異姓諸侯王を取り潰すと、こんどは自分の一族を各地の王に封じます。これらの諸国は景帝時代の呉楚七国の乱（前154）鎮圧を契機に権限縮小されて弱体化しました。地方に居を構えて封禄だけを受納し、王国の内政は漢の中央政府から派遣された官吏が司ったのです。
   高祖から高后称制時代までの、劉氏一族の諸王を掲げてみましょう。

◆楚王〔元王〕劉交（高祖劉邦の弟）−楚王〔夷王〕郢客−楚王 戊（呉楚七国の一。反乱、自殺）−（叔父）楚王〔文王〕礼−楚王〔安王〕道−楚王〔襄王〕劉注−楚王〔節王〕純−楚王 延寿（有罪廃絶）
◆代王〔頃王〕劉喜（高祖劉邦の兄。敗戦降格、死後追復）−呉王 濞（呉楚七国の一。反乱、討滅）
◆荊王 劉賈（高祖のいとこ。被殺廃絶）
◆斉王〔悼恵王〕劉肥（高祖の子）−斉王〔哀王〕襄−斉王〔文王〕則（無嗣廃絶）−（叔父）斉王〔孝王〕将閭−斉王〔懿王〕寿−斉王〔�脂､〕次昌（有罪廃絶）
      また、劉肥の子どもたちに、菑川王 劉賢・膠東王 劉雄渠・膠西王 劉卬・済南王 劉辟光の四人がありましたが、いずれも呉楚七国の一国として反乱に加担し、討滅されています。
◆趙王〔隠王〕劉如意（高祖の子。高后に殺され廃絶）
◆趙王〔幽王〕劉友（高祖の子。高后に殺され廃絶）−趙王 遂（復興→呉楚七国の一。反乱、自殺）
◆趙王〔共王〕劉恢（高祖の子。自殺廃絶）
◆淮南王〔�脂､〕劉長（高祖の子。有罪廃絶）−淮南王 安（復興→有罪廃絶）
◆燕王〔霊王〕劉建（高祖の子。高后が継嗣を殺害して廃絶）
◆燕王〔敬王〕劉沢（高祖のまたいとこ）−燕王〔康王〕嘉−燕王 定国（有罪廃絶）

   廃絶の憂き目にあった王の諡号は、多くは大した罪もなかったのにもかかわらず、隠・�氏E幽・霊など、死者を辱めるような悪い諡ですね。それでも討滅された呉楚七国の諸王のほうは、当然のように諡が与えられていませんが、後世から見るとどちらが良かったのか・・・と比較してしまいますが。
   

★高祖の功臣；

   高祖・劉邦を補佐して天下を統一した功臣たちと、その子孫です。

◆酇侯〔文終侯〕蕭何−酇侯〔哀侯〕禄−（母。蕭何妻）酇侯 同−酇侯〔定侯〕延−酇侯〔煬侯〕遺−（弟）武陽侯 則（有罪廃絶）−（弟、復興）武陽侯〔幽侯〕嘉−武陽侯 勝（有罪廃絶）−（則の子、復興）酇侯〔共侯〕慶−酇侯 寿成（有罪廃絶）−（何の玄孫、復興）酇侯〔安侯〕建世−酇侯〔思侯〕輔−酇侯 獲（有罪廃絶）−（何の六世孫、復興）酇侯〔釐侯〕喜−酇侯〔質侯〕尊−酇侯 章−蕭郷侯 禹（王莽滅亡の際に廃絶）
◆平陽侯〔懿侯〕曹参−平陽侯〔靖侯〕窋−平陽侯〔簡侯〕奇−平陽侯〔夷侯〕時−平陽侯〔共侯〕襄−平陽侯 宗（有罪廃絶）−（参の九世孫、復興）平陽侯 本始−平陽侯 宏−平陽侯 曠・・・・・
◆留侯〔文成侯〕張良−留侯 不疑（有罪廃絶）
◆曲逆侯〔献侯〕陳平−曲逆侯〔共侯〕買−曲逆侯〔簡侯〕悝−曲逆侯 何（有罪誅殺）
◆絳侯〔武侯〕周勃−絳侯 勝之（有罪廃絶）−（弟、復興）条侯 亜夫（有罪自殺）−（弟、復興）平曲侯〔共侯〕堅−平曲侯 建徳（有罪廃絶）−（勃の六世孫、復興）絳侯 恭
◆舞陽侯〔武侯〕樊噲−舞陽侯 伉（有罪誅殺）−（弟、復興）舞陽侯〔荒侯〕市人−舞陽侯 它広（不正相続のため廃絶）−（噲の六世孫）舞陽侯 章
◆曲周侯〔景侯〕酈商−曲周侯 寄（有罪廃絶）−（弟、復興）繆侯〔靖侯〕堅−繆侯〔康侯〕遂成−繆侯〔懐侯〕世宗−繆侯 終根（有罪誅殺）
◆汝陰侯〔文侯〕夏侯嬰−汝陰侯〔夷侯〕竈−汝陰侯〔共侯〕賜−汝陰侯 頗（有罪自殺）
◆潁陰侯〔懿侯〕灌嬰−潁陰侯〔平侯〕何−潁陰侯 彊（有罪廃絶）−（嬰の孫）臨汝侯 賢（有罪廃絶）
◆陽陵侯〔景侯〕傅寛−陽陵侯〔頃侯〕精−陽陵侯〔共侯〕則−陽陵侯 偃（有罪誅殺）
◆信武侯〔粛侯〕靳歙−信武侯 亭（有罪廃絶）
◆安国侯〔武侯〕王陵−安国侯〔哀侯〕忌−安国侯〔終侯〕游−安国侯〔安侯〕辟方−安国侯 定（有罪廃絶）

   このあたりがおもなところです。初代の諡はさすがに「文」「武」を軸に「景」「懿」など、伝統的な良い諡号が主流ですが、代を重ねるに連れて次第に平凡になります。「共」がたいへん多く見られますが、これは「恭」に通じるので、慎重な処世で大過なく爵位・封禄を守った二代目、三代目にうってつけの諡号ということでしょうか。

   史記「高祖功臣侯者表」に記載された功臣のうち、諡号を贈られたのは117人（上記、趙王から降格された張敖を除く）ですが、その内訳を見てみましょう。
   第一位は「荘侯」で18人。ただしこの中には「壮侯」（史記では2人）と混同されて記録された者もいるようです。
   第二位は「敬侯」で10人。第三位は「斉侯」で7人。第四位は「懿侯」で6人、第五位が「定侯」「武侯」「簡侯」「圉侯」で、それぞれ5人ずつとなっています。
   珍しい諡としては、「穀侯」（�初黶j「制侯」（丙倩）「祗侯」（陳錯）「堅侯」（戚鰓）がそれぞれ一人ずつありますが、このような諡は他に例を見つけることがなかなか困難でしょう。

★文帝・景帝の時代；

   文帝・景帝の時代は、漢王朝にとって足固めの時期でした。ですから外征に当たった将軍には特筆すべき人もありません。

   文帝の皇子たちです。梁王の劉武は呉楚七国の乱の平定に加わり、功績を挙げました。
◆梁王〔孝王〕劉武−梁王〔共王〕買−梁王〔平王〕襄−梁王〔頃王〕無傷−梁王〔敬王〕定国−梁王〔夷王〕遂−梁王〔荒王〕嘉−梁王 立（有罪自殺）−（武の八世孫、復興）音（西漢滅亡により廃絶）
◆代王〔孝王〕劉参−代王〔共王〕登−清河王〔剛王〕義−清河王〔頃王〕湯−清河王 年（有罪廃絶）−（甥）広宗王 如意（西漢滅亡により廃絶）
◆梁王〔懐王〕劉揖（無嗣廃絶）

   歴代の丞相たちを掲げてみます。
◆北平侯〔文侯〕張蒼−北平侯〔康侯〕奉−北平侯 類（有罪廃絶）
◆故安侯〔節侯〕申屠嘉−故安侯〔共侯〕蔑−清安侯 臾（有罪廃絶）
◆開封侯（二代目）〔夷侯〕陶青−開封侯〔節侯〕偃−開封侯 睢（有罪廃絶）
◆条侯 周亜夫（前掲。有罪自殺）
◆桃侯（二代目）〔懿侯〕劉舎−桃侯〔�詞�〕劉由−桃侯 自為（有罪廃絶）
◆建陵侯〔哀侯〕衛綰−建陵侯 信（有罪廃絶）
◆魏其侯 竇嬰（有罪誅殺）

   丞相の地位も次第に軽くなり、呉楚七国の乱の平定に大活躍した周亜夫・竇嬰の二人は、政治的能力に欠け、いずれも非業の死を遂げており、諡も贈られていません。皇帝が側近を重用する政治体制が整っていった時期と言えるのでしょうか。

（2003.11.22記）